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第1章:開花


人生とは、花や薬のようなものだ。美しく甘い蜜を持ちながらも血気を損なう花もあれば、見栄えは良くないが五官や血気を穏やかに整える花もある。

「温瑰(はるき)、お前はもっと優秀にならなければならない」

それは、日本とベトナムの血を引く少年、蘇生 温瑰が一生忘れることのない言葉だ。父は毎日、その言葉を繰り返した。

毎朝、温瑰は両親へ挨拶に伺い、その後、父である湊人から前日に学んだ生薬の知識について試問を受ける。蘇生家は300年以上の歴史を誇り、東洋医学による治療を家業とする名家である。当主である蘇生 湊人は、サフラン、紫檀(シタン)、蓮の精油といった希少な生薬の製造と貿易を行う会社も経営していた。

温瑰は蘇生家の長男として、まだ多感な時期の子供でありながら、父を満足させるために誰よりも努力しなければならなかった。

伝統的な白い上衣の最後のボタンをゆっくりと留め、温瑰は乱れた髪を櫛で何度も丁寧に整えた。柔らかい髪が梳かされるたびに、規則正しい摩擦音が響く。少年はふと動きを止め、茶色の木の櫛を机に置き、力を抜いて呟いた。

「僕に......できるなんて、一度も思ったことはない」

「ハル兄ちゃん、何をそんなに長くしているの? みんな食堂で待ってるよ。早く行こう!」

甘いキャンディのような声が、沈黙を破った。温瑰が振り向くと、そこには二つ結びの髪をした、無邪気で太陽のような笑顔を浮かべた少女が立っていた。

「あ、。ごめんね、すぐに行くよ」

菊と呼ばれた少女はニッコリと笑い、兄の元へ駆け寄ってその手を握った。彼女はまだ8歳だが、誰よりも深く優しい心を持っていた。

「ハル兄ちゃん、また悩み事? もう、いつもそうなんだから。お母さんが言ってたよ、悩みすぎると心の病になって、五臓六腑にまで影響するんだって!」

温瑰は優しく微笑んだ。それは、妹の無邪気な言葉に対して彼がいつも見せる微笑みだった。

「その時は、薬を煎じて飲むしかないね。うちは薬屋なんだから」

「じゃあ、私がハル兄ちゃんのために薬を煎じてあげるね!」

「そうだね。頼りにしてるよ」

窓から差し込む陽光が、妹の頭を撫でる少年の後ろ姿を照らしていた。彼はこの妹を一生守りたいと願っていた。 優しい笑顔、穏やかな眼差し、そして手から伝わる温もり。 愛を感じること――おそらく、この感情に勝る良薬はこの世に存在しないだろう。

「この瞬間が、ずっと止まればいいのに」

広々とした客間。温瑰は静寂の中で、そっと襖を開けた。最高級の畳が敷かれ、障子が光を柔らかく遮っている。その何もない空間の中、古風なちゃぶ台と、床の間に掛けられた一幅の書が、名家の静かな富を象徴していた。

「温瑰です」

「父上、母上、おはようございます」

温瑰の心臓は激しく波打ち、胃がひっくり返りそうな不快感に襲われていた。両親と向き合う時、彼はいつも息苦しい講義室に閉じ込められたような、逃げ場のない圧迫感を感じるのだ。

「温瑰。今日は学校が終わったら、市街地近くの東洋医学研究所へ行って学びなさい。生薬の調合レシピを早急に覚えるのだ」

「でも湊人さん、温瑰は先日やっと血気を整える薬草について学び始めたばかりです。そんなに急がせては、あの子が......」

「あの子はもっと多くを知るべきだ。学びすぎて損をすることはない。......さて、私は用事がある。先に行く」

父が横を通り過ぎる間、温瑰は頭を下げたまま顔を上げなかった。扉が閉まる音が聞こえて初めて、彼はゆっくりと母に視線を向けた。

蘇生 結依は温瑰の母であり、蘇生家の夫人である。周囲からどれほど尊敬を集めようとも、彼女自身の人生で自由な選択を許されたことは一度もなかった。結依は、自分の子供たちまでもが自分と同じように縛られていくことに、憤りと苦しみを感じていた。特に温瑰には、自由に自分の道を選んでほしかった。

「温瑰、ごめんなさい......」

「いいえ、お母さん。自分を責めないでください」

温瑰の瞳には強い意志が宿っていた。赤みを帯びた黒褐色の瞳が、人の心の奥底を見透かすように鋭く光る。 それは果たして、本当に12歳の子供の目なのだろうか。

ベトナム、ダナン市。 「コムニャマイ(マイさんの家のご飯)」という小さな食堂。

「おい、白ごはんのお代わりをくれ!」

「はい、ただいま!」

客の呼びかけに答えたのは、落ち着いていながらも芯のある、甘く柔らかな声だった。その声の主である少女は、額の汗をさっと拭うと、客の皿を下げて厨房へと向かい、炊き立てのご飯をよそった。炊飯器から立ち上る湯気が、週の始まりの朝の香りを運んでくる。

クイン、このご飯を7番テーブルに運んで。あと、5番と8番のヌクマムの瓶も空っぽだから、後で補充しておいてね」

「分かりました」

チュオンクインは、まだ10歳を過ぎたばかりだが、学校の合間に地元の食堂を手伝っていた。両親は仕事で不在がちなため、親戚が営むこの食堂に預けられて生活している。その代わり、クインは食費と宿泊代を補うために、懸命に働かなければならなかった。

夕方まで店を手伝った後、クインはようやく裏の倉庫で少しの間眠ることができた。今夜は塾があるため、今のうちに体力を回復させておかなければならない。彼女にとって最大の喜びは、学校で知識を吸収し、人々と出会うことだった。周囲からは「女の子に学問は必要ない」と言われることもあったが、彼女は誰よりも物知りになりたいと願っていた。

「細胞モデルの概念について、もう少し深く勉強してみようかな」

あらゆる教科の中で、クインは特に生物学を愛していた。自然界の仕組みや、生と死がどのように構築されているのかを知ることに心を躍らせていた。時折、彼女は傷口から血が出た後、どうして元通りに治るのかを考える。もし、一生治らなかったら? 踏みにじられた花のように、そのまま枯れてしまうのだろうか。

クインはふと黙り込み、膝を抱えて俯いた。自分の名前(クイン)が高貴で誇り高い花でありながら、すぐに萎れてしまう「月下美人」に由来していることを思い出したのだ。

「私も、クインの花のように、すぐに萎れてしまうのかな......?」 

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